ここがメインエリア ゲフェンタワーの最上階、円卓の議会にて1つの採択が可決された。
 それは、早文を使い、改築中の屋敷の先の庭園の一軒家に届けられる。
 それを受け取った女性、この家の家主の妻である アクア=シルバー は宛名を見て、血相を変えて夫を起こす。手紙を受け取った ブライト=シルバー は半分その手紙が来ることを予想していたように冷静に封をあけ、中の書文に目を通す。
「やはりな……」
 額に手を当て、ゆっくりと息を吐く。
「杉正君の家のポストにも議会からの手紙が入っているだろう、すまないが取ってきてくれないか?」
 心配そうに眉を寄せているアクアに、極力平静を装ってそう頼む。納得いかなさそうな表情のアクアは、真っ直ぐなブライトの目を見て、観念したように、
「分かりました…」
 と、部屋を出て行った。
 このブライトが手にしている手紙には、ついこの間の街の凍結、ドッペルゲンガーの復活による議会の結果。そしてこの事件の発端とも言えるブルーレイの処遇について書かれていた。
 通常、 魔術師 ( マジシャン ) 魔導師 ( ウィザード ) に限らず、人には自分に見合った属性が存在する。その中でも火・水・風・土の世界を構成する4属性全てを持ち合わせている人間が魔法を操る魔術師・魔導師に相応しいとされている。
 だからこそ一応魔術師は全ての属性の魔法を操る事が出来るが、殆どの魔術師は最初に覚えた魔法の属性に傾倒する事が多い。
(ブルーレイに水属性を最初に覚えさせた事は、間違いだったのか……)
 否、強い水属性に系統していたからこそ、街全体を氷付けなどと言う程度で済んだのだ。
 これがもし火や風だったなら、大量の死者が出ていたかもしれないし、土ならば街全体が一瞬で遺跡と化していただろう。
 そんな水属性が強いブルーレイにとって、砂漠は完全な土属性であり、殆どの力が効かないと言っても過言ではない。
(モロクか……)
 ここから一番遠い街だ。ミッドガルドの端の完全自治街。
 ブライトは長いため息を一回吐き出して、いつもの魔導師の格好に着替える。
 いくら、こんな日だからとって自分の仕事が無くなる訳ではない。
 部屋を出て1階に下りると、口をへの字にして、眉も八の字にしているアクアが両手で手紙を握り締めて立っていた。
 また、この顔を見てブライトは息を吐く。
「モロクへ、研修ですってね」
「ああ。順当な決断だろうな」
 伏せ気味の瞳で洗面台に向かう。
「あの子、まだ13なのに……」
「だから、杉正君も一緒に行くことになってるだろう?」
「でも……!」
 アクアが抗議の言葉を口に仕掛けた瞬間、けたたましい音が玄関から鳴り響いた
「早朝すんませーん。銀先生~」
 聞き覚えのある軽口が扉一枚など物ともしないような大きさで聞こえる。
 アクアは急いで玄関を開けると、さわやかな笑顔で頭をかいている、鍛え上げられた筋肉が露になった白いシャツにジーンズを履いて縦長の箱を持った青年が立っていた。
「大声を出さなくても、聞こえている紘君」
 しゅんと肩を落とす、青年―― 央田 ( オウタ )   ( コウ ) はゲフェン特有の武器を作る技術を持った 鍛冶師 ( ブラックスミス ) と呼ばれる職の、よく知る人物の弟子だった。
「すいません、要があるのは僕なんですよ」
 紘の後からひょっこりと顔を出した老人の顔を見て、ブライトの顔つきが変わる。
「ここに、ス……いや、ヒスイさんからの届け物が来てると思うんだが、届いてるかい?」
 老人が指している物…それは、昨日グレイッシュが届けてくれたあの封印呪の塊の事だろう。
 ブライトは軽く頷き、降りてきた階段を引き返す。アクアは玄関で2人を立たせておくのは申し訳なく思い、玄関から一番近い応接間に2人を通した。
 ブライトが昇っていった階段を、今度は逆に小さな足音が階段を降りてくる足音が聞こえた。
 たぶん、あの紘の声に起きてしまった誰かなのだろう。
「お母さ~ん。お客様~?」
「アクアお母さん、おはようございます~」
 半分トローンとした顔の最年少の2人組み、ブルーレイとグレイッシュがそっくりの寝巻きと同じ顔でアクアを見上げていた。
「頭が痛いよ~」
「頭が痛いです~」
 アクアの前まで来て最初に発した言葉は昨日のシアンティーナの仕業によって引き起こされた二日酔いによる台詞だった。
 苦笑い気味に2人をキッチンへと連れて行くアクア。入れ違いにブライトがあの塊を持って階段を降り、応接間の扉を開けた。
「これの事でしょう?」
 老人は静かに頷き、そっと手を差し出す。
「大丈夫ですか?」
「心配ない」
 僕を誰だと思ってる? と言った顔つきで、老人は塊を受け取ると、一瞬片目を大きくしたが、直ぐまたいつもの顔つきに戻ると丁寧に封印呪を取り除いた。
 その中心にあった物は、鮮烈な朱と沈みきった黒を併せ持ったような小さなレッドジェムストーンだった。
 老人は紘に持たせていた荷物を軽い手招きで受け取ると、箱の蓋を開ける。
 箱の中には試作品だと受け取った、術者の魔力を吸って力を発揮すると言われる杖と同じ物が入っていた。
 この杖に使われているこの赤の宝石は、実は先日砕けたドッペルゲンガーを封印していたレッドジェムストーンだった。
 この一番純度の高い部分を使用したと思われる、老人の手の中にある杖のレッドジェムストーンに、ブライトが渡した小さなレッドジェムストーンを落とす。
「な……!?」
 本当ならば、物体と物体であるはずの二つの鉱物はお互い弾けるはずである。だが、杖の先の鉱物は、落ちてきた鉱物をまるで水に落とした石の様に飲み込んでしまった。
 小さな宝石が完全に杖に飲み込まれてしまうと、老人はその杖をブライトに差し出す。反射的にその杖を受け取ったブライトは、次の瞬間、がくりと床に膝をついた。そして、ゆっくりと自分の意識が遠のいて行く。
「ブライト君?」
 片膝を着いて床に突っ伏してしまったブライトに向かって、老人は少々驚いて心配そうに駆け寄る。
「!」
 老人の手を借りて、頭を上げたブライトの顔は、昔よく知った男性の物に変わっていた。
「紘…すまんな、席を外してくれ」
 老人は若い弟子に本当にすまなさそうな瞳を向けると、紘は頷き部屋を出て行った。

 

「ねぇ、ぐりしゅ君、モロクのポータル持ってる?」
 飯台の椅子に座って水を飲んでいるグレイッシュに向かって、アクアは一滴の望みを持って尋ねた。
 グレイッシュは首をかしげ、上目使いに眉を寄せると、モロクがどんな街だったか考える。
「あ! ありますよ~」
 砂漠の雰囲気が思い浮かんで、にっこりとアクアに振り返る。
「お母さん、モロクに何か用事?」
 その瞬間アクアは少し悲しそうな顔になると、
「後でお父さんからお話があるから、遊びに行っちゃダメよ、ルーイ」
「はーい」
 パタンと応接間の扉の音がして、話が終わったのかとブルーレイとアクアはキッチンから顔を出し、玄関の方を見つめる。
 だが、出てきたのは老人と一緒に来た若いブラックスミスの青年だけだった。
「紘兄ちゃんだー」
 ブルーレイは顔をぱっと輝かせて、パタパタと紘に向かってかけて行く。
「おはよールーイ」
 軽く手を上げて、返事をした瞬間に紘のお腹からグ~っと大きな腹の虫が鳴った。
 それを聞いたアクアはくすっと笑うと、
「朝食、一緒にどう?」
 この言葉に紘の顔は涙を流さんばかりに輝き、
「あ、はい!すんませ~ん」
 軽い足取りでダイニングに入った紘に、飯台の椅子の1つに座っていたグレイッシュは、ミルクのコップを持ったまま軽くペコリと会釈する。
「うぉ! 同じ顔」
 いちいち元気のいい紘に、終始笑顔のアクアは、
「ぐりしゅ君とルーイはいとこ同士なのよ」
 グレイッシュは丁寧にミルクのコップを机に置くと、
「初めまして、グレイッシュです~」
 と、にっこりと微笑んだ。
「よろしくぐりしゅ。僕は紘だ」
 アクアが口にした愛称を気にも留めずにもう使っている。
 きっとこれが彼の性格なのだろう。
 グレイッシュは自分が食べた朝食の皿やコップをバランスよく重ねると、流し台の中に入れる。
「こんな朝早くにどうしたの? 紘兄ちゃん」
 ブルーレイは机に頬杖をついて、アクアが出してくれた朝食にがっついている紘の顔を覗き込む。
「んー? いや、頼まれてた武器が完成してさ~おかげでここ数日徹夜だったのだよルーイ君」
 紘は不意打ち気味にピンっとブルーレイの鼻を指で弾く。
 ブルーレイは鼻を抑えて涙目になりながら、
「う~~。そのくせに元気じゃないか~」
「はっはっはー。徹夜明けをあなどるな~寝てなさすぎてハイテンションだー……」
 椅子の背もたれに踏ん反り返った紘は、瞳を明けたまま動きが止まる。
「ねむ~……」
 ぼそっとそれだけ呟いて、紘は顔をパンパン叩くと、椅子から勢いよく立ち上がり、
「帰って寝ます。ご馳走様でした。美味しかったです」
 びしっとした口調でそれだけ口走ると、嵐のように去っていく。「師匠帰るぞー」っとまた元気のいい声がして、応接間の扉が開くと、愛想のいい作り笑いを浮かべた老人と、口元は笑っているが目線は悲しそうに俯いたブライトが応接間から出てきた。
「お邪魔しました」
 ビシッとお辞儀をして老人を連れて行く紘とそれに付いて行く老人。遠耳にゴンッと何かに当った音と心配そうに声をかける老人の声がしたが、それっきり何の音もしなくなった。
 アクアはダイニングから顔を出し、そっとブライトが立っている辺りの応接間の入り口に視線を泳がし、一瞬瞳を伏せるとダイニングの中に振り返り、
「…ルーイ、ぐりしゅ君、そろそろ皆起こしてきて」
「「はーい」」
 アクアの頼みに反応して、スリッパのパタパタという音を立てて、階段を昇る二つの音が家の中に響く。
「おっはよー!」
 ブルーレイは勢いよく扉を開けて、まったく悪気のない笑顔で、ベットで寝ている誰かの腹のあたりの場所に飛び込むように圧し掛かる。
 そして、グレイッシュはふとんから出ている肩を申し訳なさそうに揺さぶる。だが、昨夜の状況からして肩を揺さぶった程度で起きるようには思えない。
 グレイッシュは何かを思いついたように、ポンと手を叩くと、ベットの傍らに座り込み、手を組み合わせ、
「…エンジェルス」
 いきなり寝ていた誰かに耳元で聖なる鐘の音が響く。当然、パーティーを組んいる人全員の上で同じ様に鐘の音が響き、パーティー人数分の鐘が一気に部屋の中に響く。
 そんなこんなで、半分無理矢理起こされたような面々は、1階に降りたら降りたで、朝食とは思えない量の食卓の上を見て、またゴクリと唾を飲むのであった。

 

 最初に口を開いたのは杉正だった。この決議に何か理不尽な物を感じたに違いない。
「私だけならまだしも、ブルーレイをモロクに連れて行けなんて……」
 一通りの修練を終えた上級の魔法まで扱う事が出来る魔導師と違い、魔術師はまだ不安定で勉強途中のブルーレイにしてみればかなりの試練となる。
「議会は…杉正君を遠ざけたい訳じゃない。遠ざけたいのは…」
 ブライトは杉正の隣、アクアに後から抱かれる形のブルーレイを視界に入れる。
 ブルーレイは、その視線に気がついたのか、無言で眉をよせアクアを見上げる。
 当の本人は何をしてしまったかまったく覚えていないのだから、この反応は妥当といえる。
「申し訳ない……杉正君」
「いえ………」
 曰くつきといわれるこの家系に関わってしまった時点で、何かしらイレギュラーが起こる事は予想していた。むしろこの家系事態がイレギュラーになってしまったからこそ、自分にこの職が回ってきたような気がしなくも無い。
「話はそれだけだ」
 アクアは終始俯いているブルーレイを促し、部屋から外へ出る。それについて出ようとした杉正にブライトから声が掛かる。
「杉正君は残ってくれ」
 普通に純粋に疑問符を浮かべて振り返り。その後でアクアが扉を閉める音が聞こえる。
「君に、この杖を渡しておきたい…」
 それは、朝、紘と老人が持ってきた箱だった。また丁重に蓋をされた箱を開ける。
 そこには1つの杖が入っていた。
「これは……?」
「本当はあの子に持たせてやりたいが、きっとこの杖に負ける」
 ただでさえコントロールに疎いブルーレイがこの杖を持ったら…考えただけで結果が手に取るように見えた。
「君が使うといい」
「ですが……」
 明らかに学校で売っているアークワンドなどの杖とも、スタッフなどとも違う。同じなのは赤い宝石が核のようにあしらわれていると言うだけ。
 アークワンドを持ったところであまり変わらない杉正が、今この杖を持って何か変わるとは思えない。
「いいんだ、持っていってくれ」
 見ているのが辛くてしょうがない。そんな雰囲気だった。
「ありがとう…ございます」
 杉正自身おざなりな返事だとは思った。でも、それ以外に言葉が出てこなかった。
(……?)
 杖を持った瞬間、何かしら言いしれない違和感が杉正の杖を持った指先、手の平から伝わる。
 ――――何と言うか、これは畏怖の念
 それ以上会話がなくなると、杉正は軽く腰を折り部屋から出て行く。それを確認した瞬間、ブライトは長いため息をついた。
 そして、皆が出て行った扉をただ無表情で見つめる。こんな時したらいい表情が思いつかなかった。
 ただ、1つ気がかりな事があるとすれば、それは杉正に渡した杖が、あのレッドジェムストーンを取り込むことで、最初に試作品として作ってもらった杖と効果も形も変わってしまった事だった。

 

 

 

「兄さん?」
 ブライトの部屋から出て階段を降りると、自分と同じ色の瞳に呼び止められる。
「どうしたの? 何か暗いけど」
 腰の刀がベルトに引っかかっている音をカチャカチャと鳴らして、真は杉正に駆け寄る。
「今度、モロクに行くことになった」
「モロクって、あの暑い自治商業都市の?」
 杉正は軽く頷く。
「そっか…モロクかぁ」
 また、当分逢えなくなる。
 真は杉正がゲフェンに居たことに少しホッとしていた。杉正がゲフェンに来ていたと知る前も、家に帰れば逢えると言う心がどこかにあって何処かしら安堵感を覚えて居たのは事実。
「じゃあ、ウチ一度家に帰ろうかな。兄さんも家から出ちゃってるから、お父さんとお母さん寂しがってるだろうし」
「ああ」
 真の提案に、杉正は肯定の微笑を返す。そして、小さい頃みたいに真の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。グレイッシュの頭をぐしゃぐしゃと撫でる真の動作は杉正譲りだった。

 

 

 部屋から出た所で廊下の壁に持たれて立っていたのはシアンティーナだった。
「シーナ…」
 アクアは少し怒っているように見受けられる彼女の名前を軽く唇に乗せる。
「お姉ちゃん。僕…モロクに行かないといけないんだって…」
 シアンティーナはアクアの顔を伺うように目線だけを向ける。アクアは薄く笑うと、ブルーレイを離し階段を降りていった。
「あら、じゃあルーイお土産に何か宝石でも買ってきてもらおうかしら」
「へ?」
 モロクは港町であるアルベルタに次ぐ商業都市ともいえる。完全自治都市なだけに個人露店が多い。モロク特産の宝石商の話しは結構有名だ。
「オレンジ色のポリンが沢山居た気がするけど…」
「オレンジ? ポリン?」
 今まで暗かったブルーレイの顔がこの言葉で一気に明るくなった。頭の中はオレンジ色のポリン=ドロップスの事で一杯になっているようだ。
「ピッキっていう小さい鳥も居るみたいよ」
 どんどんブルーレイの顔が輝いて行くのが見て取れる。シアンティーナはモロクの周りに生息している生物を数々と上げていく。その度に感嘆の声を上げるブルーレイ。
「僕、なんだか楽しみ~」
 ニコニコと笑顔が戻っているブルーレイを見て取って、シアンティーナの瞳がキラリと光った。
「でもね、ルーイ、モロクってねとっても熱い街なんですって」
 シアンティーナは不自然じゃないように、ブルーレイの背中を押して、洗面所に連れていく。
「お姉ちゃん?」
 流石に疑問の声を上げるブルーレイを無視して、にっこり笑うと。
「動いちゃダメよ」

 ―――ジャキン☆

 シアンティーナのこの言葉と共に、ブルーレイの前髪が一房床に落ちる。
「………」
 ゆっくりと床に視線を落とすブルーレイ。
「な…なな? なーー!?」
 何するのーっと声に出したいところなのだろうが、全然言葉になっていない。
「モロク熱いらしいでしょ♪」
 にっこり笑顔のシアンティーナの笑顔が、ブルーレイには今日はとても恐ろしく見えた。

 

        ◆◇◆

 

 玄関先でグレイッシュはブルーレイと杉正の準備が調うのを1人でポツンと待っていた。真とソリュードも一緒に待ってようか?と言ってくれたが、なんとなく1人になりたくて断わった。
 屋敷の向こうに遠く見える塔の先端が太陽の光を反射して光っている。まるで魂を吸い込まんとせんばかりに……
「ごめんなさい、待ったかしら」
 玄関先でぼ~っと塔を見つめていたグレイッシュはゆっくりと振り返る。
「グレイッシュがモロクポータルを持っていたとはな」
 モロクのメモを持っていると言う事は、すなわちモロクへ行った事があると言う事にもなる。
 アクアの後から薄く笑うブライト。
「やだよぅ!」
 その奥からブルーレイの悲鳴とも言えるような声が響く。
 そっと覗き込むと、深くフードを被りその上からまた手で押さえ込んでいる。それをいつもの微笑で剥がそうとしているシアンティーナ。杉正はただ溜息をついていた。最後にオロオロとその行動を見ている真。
 家の中から出て、グレイッシュと顔をあわせたブルーレイの顔は、口元はへの字、眉も八の字に加えて泣きそうになっていた。そんなブルーレイの心情を知ってか知らずか、グレイッシュはにっこり笑うと、お構いなしとでも言わんばかりに、
「モロクのポータル開きますよ~」
 ブルージェムストーンを取り出し、地面に光の魔方陣が現れる。シュバっと音がして、光の柱が魔方陣から昇った。
 その次元の扉の出現ににっこりと振り返る。
「いってらっしゃい。ルーイ、お土産楽しみにしてます~」
「う…うん」
 ブルーレイは立っていた玄関先から駆け足で光の柱に向かう。
「えい!」
 走り出した事でガードが緩んだ瞬間に後ろからフードを剥ぎ取られる。
「うあ」
 そして、振り返った瞬間に光の柱に飲み込まれ、
「お姉ちゃんのバカーーー!!」
 などと言う断末魔を残して消えていった。
 杉正はまた、長い溜息をつき、アクアとブライトに軽く頭を下げ、ちらりと手を振っているシアンティーナを一瞥し、光の柱に向う。
「兄さん、いってらっしゃい」
 真はポータルを開いたグレイッシュの隣に立って、杉正に手を振る。
「行ってくる」
 軽く笑顔を返して、同じ様に杉正の姿も光に飲み込まれ消えていく。それと同時に光の柱も力を失って消えていった。
 ――――――カラン……
「ん?」
 ポータルの光が消えた場所に落ちている一本の杖……
 訝しげにそれを眺めると、ブライトが杉正に持たせたはずのあの杖だった。